ローソクあれこれ

酒を飲みながら話をしていた時にローソクが出てきて、それを見た途端、かつてローソクにはまっていたことを思い出した。ローソクといっても別にそういう訳ではない。土、日、月と続く連休のさなか料金を払うのを忘れていたら電気を止められてしまい、困ってしまった。家に着くと陽は暮れていたので部屋の中はもう真っ暗だ。そこでローソクを買いに行った。普段はそういう趣味もないのでローソク売り場というものに馴染みがなかったのだが行ってみると、極細のものや極太のもの、香り付きのものや色とりどりのものなど、様々な種類があり買うのに迷ってしまった。そしてそういう場所には何故か知らないが女性が多い。”あら、いい香り”、”ちょっと、ちょっと、これ可愛くない?”などとやっている。そういう場所で事情が事情な男一匹は目をぎらつかせ、「実用的な一本」を探しているのである。多少、挙動不審なこの男は一本、一本を手に取り、下から上へ舐めるように見つめ、”あぁ、これは何時間くらい持つのだろう?”、”あぁ、これは太過ぎる”などと言っている。今、思えばしかるべき場所に突き出されなかったのが不思議なくらいだ。しかし、長いこと吟味していると「実用的な一本」などを買うよりも綺麗な色で良い香りがするものの方が欲しくなってきた。素敵なローソク立ても欲しい。そうすると、ドライ・ハーブやらオイル・ハーブなども目に付いてくる。結局、赤、ピンク、黄色のローソクを2本ずつとローズのドライ・ハーブを買った。真っ暗な部屋に帰るとわたしはローソクに火を点し、部屋の至る所にローソクを置いた。暗闇で揺れる炎は何時間見ていても飽きない。それにこの絶妙な明るさは何とも言えない味がある。電気を付けているよりもよっぽどいい。わたしは静かな明かりの中でギターを弾き、ロマンチックな気分になった。やがて弟が帰って来た。ドアを開け、暗い部屋の中に入り、ローソクに照らされているわたしと目が合うと一言も発せずにまたドアを開け、出て行ってしまった。彼はその日、帰ってこなかった。あの時の事について彼は未だに何も聞かない。