危険なナニかしら

 全く眠くない。まるで危険なナニかしらを注入したかのようだ。眠ろうとすればするほど眠れないのでもう、眠ろうという意識は消す事にした。本当に駄目になれば電池が切れたように場所を問わず勝手にぶっ倒れ、そのまま何処かへ行くだろう。そういえば学生の頃から白いものを見ると眠くなった。試験の時などは答案用紙を配られ、それを見るとそのまま眠くなり、寝てしまった。空を見上げていて雲を見ていると眠くなった。それに対し、色がついているものをじっと見ていても平気のようだ。不思議だ。そもそも、わたしは別に眠る事はそんなに好きではない。どちらかというとずっと起きていたい方だ。ただ眠りに落ちるあの瞬間だけはたまらなく好きだ。あの微妙な瞬間にわたしは一体どちら側にいるのだろう?わたしは絶妙なバランスの中で出来るだけその瞬間を楽しもうとする。やがて、そのバランスが崩れ自力ではどうにもならなくなり、わたしは自らの力の及ばない世界へとスゥーと吸い込まれていく。それはわたしの数少ない快感の一つだ。モーツァルトは「わたしは毎晩、死ぬ」と言った。ギリシア神話では「眠り」は「死」の兄弟である。その後に訪れる目覚め、そして再生。わたしが望むのは瞬間、瞬間のそれである。