涙は心の汗です

チャリでコケた。
かつては猫の如き俊敏性を持ち、ライブ前にはバク宙をかまし、日々の筋トレで鍛えていた肉体もとうの昔にとっくに朽ち果て、脂肪の塊と化し、ブヨブヨになった身体では満足な受け身も取れず、自転車から転げ落ち、まともにアスファルトに手をついてしまったため、左掌の皮はむけ血みどろとなり、なんだか、左腕全般がどうにも動かない。これはいかがしたものか、と呆然としていると、ちょうど目の前に病院があった。そこでこれ幸いとばかりに病院に「たのもおー」と突入するが、まだ時間が早く営業開始まで15分ほどあった。待合室には座れたのでじっとしていると、血をダラダラ流す哀れな姿に見かねたのか、看護師さんがやってきて、止血やガーゼやガーターベルトなどを装着してくださる。その優しさに目に涙が溜まり、「痛みますか?」と聞かれるが、「いえ、これは心の汗です」とか何とかゴニョゴニョ言う。

医者の勧めるまま手首と肩のレントゲン写真をパシャリパシャリやる。コケた直後はこれはもう長いこともあるまい、と観念していたが、先生や看護師さんがとても優しく接してくれ、骨にも以上がなく、手首の捻挫、肩の腱を痛めた事、まあ、ひと月もすれば治るだらう、という事が分かると急に元気になってきた。満足したわたしはカツ丼弁当でも買って家に帰り、大谷の去年のホームラン動画集でも見ることにした。

一ト仕事を終へて一服してゐる人がよくさふ思ふやうに、生きようと私は思つた。