下北道中膝栗毛 ~007は二度死ぬ<第3部>

 残月、橙色に光りを放ちたる彼の場所までその影を細長く路面に落とし、我らをその死の淵まで 誘うが如くに照りにけり。拙者、御殿の制止も聞かずに「我が朱槍が一番槍を頂戴仕る!」と 脱兎の如く走りより、階段を駆け上がろうとするその刹那、料金表なるものが目に飛び込み、 ハタと踏みとどまり候。後ろからようやく追いついてきた御殿、「本日、 金曜の夜にて、明日、土曜日、明後日、日曜。その理が分からぬ御身であったか。 この主戦場たる時間帯に彼の場所へ踏み込むは決して賢者の為し得ることべからず。 御身の立ち振る舞いは勇者の勇ではなく、匹夫の勇と心得よ」それを聞きて拙者、 自らの浅はかさを痛感し、たちどころに跪き腹に短刀を突きつけようとするが御殿、身を挺して短刀を奪うと、 「死ぬるは下の下、生きて明日の計を考えよ」と涙ながらに訴えにけり。 「いつの日か、臥薪嘗胆してその時を待とうぞ。この雪辱を晴らす日もやがてはやって参ろうぞ」 御殿が言い終えるまでもなく拙者、新たな欲求が生じ「それでは拙者はデニムのシャツが欲しいでござる」 と言い放つものの、衣服に関する情報に非常に疎いため、言い放った後にて涙ながらにオロオロしていると、 「それは余にまかせい」と御殿、次から次へと衣服屋に案内してくださるが、そのことごとく 時間が遅いために閉まりにけり。「うむ、万策尽きたでござるか」と拙者がもらすのを聞いた御殿、 印を結ぶと「南無八幡台菩薩」と唱え、眼前に一軒の古着屋を出現させるなり。拙者の意は叶いしものの 毘沙門天の「毘」の字と「666」という数字を額に発動させた御殿、我を忘れたるが如くに CD屋、珈琲屋、玩具屋と拙者を引きづり回し、地獄と極楽浄土を堪能させるなり。 「うむ、これにて。全軍引けぇい!」の御殿の一声で当日の出陣は終了仕る。 まさに死闘に次ぐ死闘で息つく暇もなき激戦でござった。本日の収穫、お金で買えない物、プライスレスでござりました。