いつものように朝のシャワーを浴びると、キューバ産の葉巻に火を付けた。それからブランデーを片手に 深々とソファに腰掛けて、テレビをつけた。 しかし、すぐに”朝から低俗で俗悪なジャーナリズムに浸ることはあるまい”と思い直すと 、昨夜見た夢には一体、どんな意味があるのか、を考えようとした。 その時である、一本の電話が舞い込んだ。
「今夜、横浜、中華街、裏路地、秘密倶楽部、悪魔、血・・・ドラゴンが・・・」
それだけの言葉が耳に飛び込んでくると電話は切れた。 オレは青い煙を吐き出すと、”ついに来たか”と覚悟を決めた。 夕刻、トレンチ・コートを羽織るとオレは人ごみに紛れ、中華街に潜入した。
一見、華やかなその裏に凍てつくほどの残忍な顔を隠す街、中華街。 一瞬の判断の迷いが死を招く街、中華街。享楽と裏切りが横行する街、中華街。 張り込みを開始してから1時間は経とうとする頃、街に一般客とは明らかに放出するオーラを異にする 7人組みが姿を表した。魔術師風の男、チャイナ・ドレスを着込む女、サングラスをつけ辺りを伺う男、 教師風の女、小柄な身体に不釣合いな大きな鞄を2つ背負う女、鞄に特殊武器らしきものを所持している男、 一見何の変哲もないが懐のふくらみ具合からソレを所持していると分かる男。 ”間違いない”オレは尾行を開始した。その集団はまず、店前で順番待ちをしている行列を無視して料理屋に入っていった。 オレは目を疑った。このG.Wで混み合う中で、何故そんなことが可能なのだ? ”どうした?皆には見えないのか?奴らの姿が?”すぐにオレは理解した。”魔術か、使ったな!” 張り込むこと2時間、店から出てきた一団は人ごみを避け、人気のない方へと歩き始めた。 ”そろそろやる気か・・・”オレの全身に緊張が走った。しかし、一団はすぐには事は始めずに妖しげな店へと入っていった。 ”ここはJAZZ喫茶のはずだが”オレは店の扉に耳をつけ中の音を聞こうとした。大音量でJAZZが流れている。 すると突然、ソレは関西弁のしゃがれた女の声に変わった。”むぅ、またしても!魔術!” ”フハッハッハ、次はカ・ラ・オ・ケじゃ””イカン!”オレはすばやく身を翻すと電柱の影に身を隠した。 一団はまた別の店に移動を開始した。”もう追うのはやめるべきではないのか?”「死」オレの脳裏をそんな言葉がよぎった。 しかし、オレは気が付くと一団の後を追っていた。オレは店の外で一団が出てくるのを待った。 しかし、長い。長すぎる。もう2時間が経過しようとしていた。うむ、やるか。”もはや、真実を確かめるまでは後にはひけまい” オレは気力を振り絞り、店へと突入した。そこには唇を血で真っ赤に染めながら、バラバラに引きちぎった男達の身体を喰らい尽くす 女達の姿があった。オレは呆然と立ち尽くした。ソレに気付いた教師風の女は笑いながら「次はお前だ!」と叫んだ。 オレは一瞬、気を失いかけた。そして覚悟した。”もう駄目だ”その時である。中華街の到る所に飾られているドラゴンが 生気を帯びて集結して、オレの前に立ちふさがった。”今のうちだ!”オレは一目散に駆け出した。何処をどうやって走ったのか、もう思い出せない。
気が付くとオレは外人墓地に寝ていた。”オレは助かったのか?” オレはあの言葉を思い出していた。「今夜、横浜、中華街、裏路地、秘密倶楽部、悪魔、血、ドラゴン」 信ずるものは救われた。魔都、中華街。ナニが起きても不思議ではない。
今夜、横浜、中華街
雑感
