3本やって3本とも負けた

先日、実家に帰った際のある夜のことだった。 「兄上、気晴らしにレスリングでもやりませんか?」 というなり、K次郎はTシャツを脱ぎ捨て裸になると膝をつき体勢を整えた。 見事なまでの筋肉である。首をコキコキ鳴らしながら 「最近、鍛えているそうですね。J三郎から聞きましたよ」とのたまう。 完全な挑発行為であり越権行為である。これを見逃すと後々どんな災いを呼ぶか知れない。 危険な芽は早く摘むに限る。「おまえこそ、なまっているんじゃないか。ふふふ」 わたしもシャツを脱ぎ捨て裸になると膝をつき体勢を整えた。 一瞬、一瞬だった。わたしはひっくり返され両肩を床につかされた。 大人と赤ん坊である。3本やって3本とも負けた。3本目などは最終手段として わたしはボディにパンチを入れた。反則ではあるがこういう場合は致し方ない。 しかし、まったく効かない。わたしの攻撃をものともせずにわたしを組み負かした。 彼は余裕からか「あれ、おかしいな?今日は調子が悪いのですか?」と言った。 「そうだ。調子が悪い。いや、悪すぎる。もしかすると病気なのかも知れない、全身がだるい感じで、 ゴホゴホ・・うーん、咳に血が混じっているような・・・」「それは可愛そうですね、また次回に勝負しましょう」 「うむ、今日は痛み分けだな」 今回はわたしのとっさの頭脳プレーで何とか難を切り抜けたが、次回はそうはいくまい。 力だ。力が必要だ。力の論理。数の論理。わたしはアレコレと策略を巡らす。 強力な軍事力を保持せねばなるまい。まずは資金集めか。その後、徐々に党員を増やし、 議席を確保し、法案をどしどし通過させることだ。法案さえ通ればこっちのものさ。 憲法九条に言及することも・・・いや、あれはむしろ破棄せねばならん。現代おいてあれは実際ないようなものだ。 わたしはふと、ヒトラーを思い出した。彼も弟にレスリングで負けたのだろうか? そうでなくとも差ほど変わらない事情が彼を駆り立てたのかもしれない。ありえない話ではない。