10歳の頃までは砂浜から松林を挟んで100mくらいのところに住んでいた。 だからわたしの靴の中はいつも砂でいっぱいで、眠るときにはいつも波の音が聞こえた。 夏、冬と季節を問わず、わたしは海を愛していた。
そんなウブなわたしのアレは高校生の時だった。 ある夏の日に友人たちと海で遊んでいたら溺れかけて死にそうになった。 後で知ったのだが、台風が近づいていて非難勧告が出ていたらしい。 確かに半端ではない波の高さと荒れ具合で海水浴をしている人間などほとんどいなかった。 50mほど沖に出たわたしは強い引き潮のために海岸へ戻れなくなった。 25mまでであれば当時、水泳部の連中にもひけをとらないスピードを誇るわたしでも前へ進めないほどだった。 5分ほどもがき、たらふく海水を飲んだ後でわたしは死を覚悟した。 「これは駄目だ。明日の新聞に出るな。美男高校生海水浴で溺れ死ぬ!と」 しかし、最後の最後でもう一度だけトライしてみようと思った。 息の続く限り腕と足をジタバタするといつの間にかかろうじて足がつく場所まで来ていた。 わたしは寸でのところで助かったのである。なんとか波打ち際までたどり着き、後ろを振り返ると どういう訳か海で一緒になったJ三郎が顔と両手だけを出してジタバタしている姿が見えた。 完全に溺れている人のソレだった。助けに行こうと思ったが、今度は波が強すぎて前に進めない。 「うーん、仕方ないな。アイツはもう駄目だ。可哀想だが仕方がない。この際、思い切って諦めよう。」 そう観念しているとエージという友人がどこからともなくボートにまたがり現れ、J三郎を助けると 砂浜に戻ってきた。「エージ、そのボートはどうしたんだ?」 「いや、溺れてジタバタしていたら見知らぬおじさんが助けに来てくれたんだ。 それでそのおじさんを突き飛ばして、代わりにこのボートを手に入れたって訳さ」 「しかし、そのおじさんは・・・」エージはいつも目を見開いてるような顔をしている男だったが、 この時もそんな表情で「知らん」と言った。今でも夏が来るたびに思い出す。 そして海が恐ろしいものであることもその時に初めて知った。 夏の海は思い出でいっぱいだ。
今や、ほとんど夏。しかし、もう7月なので完全な夏であっても差し支えないはずだ。 通常、屋内に生息しているために日中はほとんど太陽を浴びることがないのだが、 本当は全身いっぱいに日差しを浴びて汗をかいていたい。 そしてどこまでも歩いて行きたい衝動に駆られる。 それでもやっぱり、歩く先には海があると一番いい。

