ジャスティン・ガトリン

 「もう分かった!そんな話はたくさんだ!ところで一番強いのは一体、誰なんだ?」 という格闘技愛好者達(以降マニアと呼ぶ)の嘆きはよく耳にするところである。 マニアの嘆き、あるいは心の叫びもわたしも長年のマニアとして大いに理解できるところである。 しかし、ボクシング、キック、空手、レスリング、柔道、サンボ、最近ではKー1、総合格闘技とそれぞれが ルールが異なる中でのこの優劣は非常につけにくい。 「だからこそ、我々はそこに夢を見ているのではないか?」 そんな声が何処からか聞こえてくる。おぉ、同士よ!その通りだ。間違いなくその通りなのだ。 わたしだって知らない訳じゃない。 正にソコにこそロマンがあるのだ。勇み過ぎたわたしを許しておくれ。 しかし、今言いたい事はそれではないのだ。 それではこれはどうだろう? 「世界で一番早い人間は誰なのだ?」 そうなのだ。これは400Mでも200Mでもなく、100Mを一番早く走れる人間がその名に値するのだ。 実に簡単な事である。 そしてわたしのようなオリンピックチルドレンにとっては100Mこそがオリンピックといっても過言ではない。 確かにマイルレース(400X4)も面白い。あれは好きだ。 しかし、100Mという短い距離、あっという間に終わってしまうレース。 スタート前の異常な緊張感。獲物を狩る前の戦士達のような選手の眼光。 そして本当に意味があるのか、という選手達の上半身の筋肉。 わたしはあの瞬間に最も恍惚とし陶酔する。 4位までが9.8秒台という史上稀に見る高速レース。 わたしは頭を抱え、「アーーー!」と早朝の街に絶叫を響かせた。 ジャスティン・ガトリン。アテネを制した男の名だ。