マッドマン

 夜、下北を散歩している途中で「マッドマン」なる魚屋さんに足を踏み入れる。 魚屋さんと言っても食べる方ではなく、鑑賞する方である。 「どれ、ちっこい魚でも試しに見てやるか。気に入らなければ 喰ってしまうこともやぶさかではあるまい」 くらいの気持ちで店内に突入する。しかし、どうであろう。 さすがに観賞魚だけあってどれもこれも色鮮やかで美しい。「うむ、ええじゃないか!」 わたしは生で食することも可能なようにと両手に握りしめていた携帯の醤油とソレ用の小皿と箸を投げ捨てた。 ”獣人”の異名を持つわたしでも美しいものを食べるわけにはいかない。 最もわたしの気をひいたのは、魚がどうした、というよりも大きな水槽に入った ジオラマ風のソレである。ユラユラとうごめくイソギンチャクの中で小さなカニがヒョコヒョコと 顔を出したり、入ったり。行ったり来たりコンニチワ。 真っ赤なエビが白い砂の上を軽やかに移動し、熱帯魚がゆっくりとその横を通り過ぎて行けば、 鯛やひらめの舞踊、ただ珍しくおもしろく、まさに人間の手による人工楽園。 こういうものは確かにマニアにはたまらんはずだ。

わたしも急にこういうモノが欲しくなる。 水以外は何もない状態の水槽に原始大気をぶち込み、雷を落とし、火山を噴火させたりすれば、 新しい生命体を誕生させることも可能かもしれない・・・というイケナイ想像が頭を駆け巡る。 「そうだ!そして最初に誕生した原生生物に言葉を教えるのだ。魚類になる頃には自らで道具を 用いて何かを創造することが出来るようにしよう。人間になる頃には現代の文明を遥かに凌駕する 知能を持つだろう。全ての人民をわたしのために労働させるのだ。 おぉ、そうだ!わたしを”主”と呼ばせよう。銅像を作らせるのだ。 文句をいう奴がいたら水槽ごとひっくり返してやる!”将軍さま・・・”、おぉ、 これからはわたしのことを”将軍さま”とお呼び!」 わたしは水槽をにらみつけると何事かブツブツとつぶやいた。